消えた家宝

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   階段下で牧田と別れると、父親がいるであろう書斎へと足を運ぶ麗子。  帰宅をしたら、書斎にいる事が多い父親の日頃の習慣で知っていた麗子は、躊躇無く、赤い絨毯が敷かれた通路を真っ直ぐに進んで行く。  風景、人物画などの絵画や高価な壺が飾られているのは屋敷東側とそう変わらないが、書斎部屋に近づくにつれ、陽気な曲が聴こえて来たのが東側との唯一の違いである。  ジャズが好きな一男は、書斎にある蓄音機でこのように曲を流すのが楽しみの一つでもあった。   書斎は、西側奥の部屋。  書斎の扉の前に着いた麗子は二度ノックをした。  コン……コン…………。  だが、父親からの応答が無かったのでドアノブを捻ってみるが……開かない。  いつもは鍵をかけていないが、今晩は珍しく鍵をかけてある。  どうもおかしいと、ドアに右耳を当てて書斎内の様子を確認する麗子。 〈幸いこの時間帯、盗み聞きをする麗子の姿を見かけた者はいなかった。    こんな姿を牧田にでも見られていたら きっと怪しまれていた事だろう〉     ドアの向こうで何か聞こえては来ないのか、物音を聞き取ろうと一点に集中する麗子。  すると……微かだが、ジャズの音に混じって、一男の声が聞こえて来た。
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