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だって、私は知っている。
彼が苦手なものを彼女が好んでいることも、彼の好きなものを彼女が好まないことも。そして、そのすべてに合わせてしまうほどに、彼女を大切にしていることも。ここへは、だから休憩に来るようなものなのだ。
彼が愛する彼女のことも、私は愛している。そして、どうしたって彼女には敵わないことを目の当たりにしても、この関係を彼が望む内は続けたいと思う。きっと、彼女がそうであるように。
「あと、何ヶ月かな」
彼が寝たことを確かめると、私はまたソファに来ていた。
子供が生まれるまでのカウントダウン。きっと子供が生まれてしまえば、何かが変わるのだろう。それすらも受け入れるつもりだ。わがままに身を任せて、彼を責め立てる気もない。彼がただ、好きに生きられたらいいのだ。そのために職を変えて、家も移ったのだから。
私が職場を離れれば彼は彼女と結婚できるし、元々彼の家から近かったマンションから遠くに引っ越したのも、そうすれば過ごしやすくなると思ったから。
ぜんぶ、ちゃんと考えて行動したはずだったのに。
「香織さん、いつ気付いたんだろう」
ふと口からこぼれた声は、あまりに小さく空気に溶けていった。
――――…
一人、布団で目を開けると、当然のように隣りは空になっていた。
「気付いていないと思っているのかしら」
こんな時でも品のある口調で、そう漏らす。夜はいつも、一人。それでもちゃんと帰ってくる彼を、すべて許してしまう自分につい笑ってしまった。
「惚れたら負けって、本当よね」
そう漏らして、彼女はまた目を閉じた。夜の気配がまた深まっていった。
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