6/6
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
だって、私は知っている。 彼が苦手なものを彼女が好んでいることも、彼の好きなものを彼女が好まないことも。そして、そのすべてに合わせてしまうほどに、彼女を大切にしていることも。ここへは、だから休憩に来るようなものなのだ。 彼が愛する彼女のことも、私は愛している。そして、どうしたって彼女には敵わないことを目の当たりにしても、この関係を彼が望む内は続けたいと思う。きっと、彼女がそうであるように。 「あと、何ヶ月かな」 彼が寝たことを確かめると、私はまたソファに来ていた。 子供が生まれるまでのカウントダウン。きっと子供が生まれてしまえば、何かが変わるのだろう。それすらも受け入れるつもりだ。わがままに身を任せて、彼を責め立てる気もない。彼がただ、好きに生きられたらいいのだ。そのために職を変えて、家も移ったのだから。 私が職場を離れれば彼は彼女と結婚できるし、元々彼の家から近かったマンションから遠くに引っ越したのも、そうすれば過ごしやすくなると思ったから。 ぜんぶ、ちゃんと考えて行動したはずだったのに。 「香織さん、いつ気付いたんだろう」 ふと口からこぼれた声は、あまりに小さく空気に溶けていった。 ――――… 一人、布団で目を開けると、当然のように隣りは空になっていた。 「気付いていないと思っているのかしら」 こんな時でも品のある口調で、そう漏らす。夜はいつも、一人。それでもちゃんと帰ってくる彼を、すべて許してしまう自分につい笑ってしまった。 「惚れたら負けって、本当よね」 そう漏らして、彼女はまた目を閉じた。夜の気配がまた深まっていった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!