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 ぽつぽつと、発せられる言葉を、アツシは、黙って訊いていた。  そして、不意に伸びてきた手で、頭を撫でられる。  やさしく置かれた手は、やっぱりあったかい。 「それはな・・・・俺の姉貴だ」 「は?」  勢いよく顔を上げると、アツシは白い歯を見せてにかりと笑った。 「旦那が浮気してるだのなんだので、モメてたんだよ。そんなみっともない会話、おまえに訊かれるの嫌でさ。 だからといって、放っとくわけにもいかねえしで・・・・まあ、結局旦那は無実で、もうすぐ子どもも産まれる」 「・・・・」  ぽかんと口を開けたまま固まった自分の顔を見て、アツシは苦笑を洩らして小さく肩を竦めた。 「・・・・不安がらせてたんだな」  ごめん、と、アツシは申し訳なさそうに小さく頭を下げた。  頭の中がごちゃごちゃだ。  結局、なんだったんだろう。  いままでのことは、いったい、なんだったんだろう。  うーん、と、頭を捻りだした自分の眼の前で、小さな笑い声が聞こえる。  いったい誰のせいだ、と、恨めしげな視線を上げるのと同時に、強く手を引かれた。  咄嗟のことで逆らえなかった身体は、そのままアツシの腕の中に倒れこんだ。  宥めるように、背中をぽんぽんと軽く叩かれる。  懐かしいアツシの熱と、アツシの匂い。  眩暈がした。 「俺、おまえのこと、好きだよ。あの頃からずっと・・・・」  背中に回された腕に、力がこもる。  握られたままの手も、熱い。  もう二度と離さない。  そんなふうに、いわれている気がした。 「俺は・・・・」  あのとき、自分たちはこの場所からはじまって。  そして、いまも、この場所にいる。  バカみたいだけど。  だけど・・・・。  胸の奥で膨れ上がっていた感情が、カタチを変えて、溢れてくる。  じんわりと、じんわりと。  染み込んでくる、想い。  あの頃より、大きくて・・・・深い、想い。  いまが冬でも、春でも、どっちでもいい。  どっちでも、自分を包み込む熱は、同じものだから。  自分が、与える熱は、同じものだから。  潤みだした眼を瞑って、アツシの肩口に額を擦りつける。  そして、空いている手で、アツシのシャツを強く握りしめた。 「もっと、おまえに触れたい」
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