エピソード1

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つい睨み返しそうになる博人だが、しかしそんな博人の胸ポケットで、いきなり携帯がけたたましく着信を告げる。 これは、すぐに取らなければならない方の電話だ。 博人は雨本親子に指先で断ってから、 「もしもし――」 案の定、 「失礼。仕事でどうしても出かけなくてはならなくなりました」 博人は再び雨本親子に頭を下げる。 「おふたりには、きちんとお礼も出来ないまま申し訳ないのですが」 「いいええ。大丈夫ですよ」 みどりがおおらかな笑顔を浮かべて、両手を大げさに振った。 「かえでさんには、私たちがもうしばらくついていますから」 「いえそんな。そこまでしていただくわけには……」 「いえいえ。ウチの息子も、このまま帰れといっても、とても言うことを聞きそうにはないですから」 おかしそうに笑って高史の方を見やれば、高史は、微動だにせずベッドの上のかえでを見つめている。 みどりはそんな高史を、目尻を下げながら微笑まし気に眺めて、 「かえでさんは大丈夫ですよ。お兄さんは安心して、お仕事に行ってらしてください」 みどりに促されて、博人は礼を言って家を出た。
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