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つい睨み返しそうになる博人だが、しかしそんな博人の胸ポケットで、いきなり携帯がけたたましく着信を告げる。
これは、すぐに取らなければならない方の電話だ。
博人は雨本親子に指先で断ってから、
「もしもし――」
案の定、
「失礼。仕事でどうしても出かけなくてはならなくなりました」
博人は再び雨本親子に頭を下げる。
「おふたりには、きちんとお礼も出来ないまま申し訳ないのですが」
「いいええ。大丈夫ですよ」
みどりがおおらかな笑顔を浮かべて、両手を大げさに振った。
「かえでさんには、私たちがもうしばらくついていますから」
「いえそんな。そこまでしていただくわけには……」
「いえいえ。ウチの息子も、このまま帰れといっても、とても言うことを聞きそうにはないですから」
おかしそうに笑って高史の方を見やれば、高史は、微動だにせずベッドの上のかえでを見つめている。
みどりはそんな高史を、目尻を下げながら微笑まし気に眺めて、
「かえでさんは大丈夫ですよ。お兄さんは安心して、お仕事に行ってらしてください」
みどりに促されて、博人は礼を言って家を出た。
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