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そして博人の雇い主――、
実は、博人も詳しくはその素性を知らない。
便宜上、
「お呼びですかドクター」
ドクターと呼んでいるが、本当に医者かどうかも知らない。
いや、ドクターという呼び名には、博士という意味もあるから、そちらの方が意味合いが近いのだろうか。
「これが今回のターゲット。本名は石川裕也。都内の落ちぶれたクラブの経営者だ」
ドクターが映し出すモニターには、中年の男の顔が写し出されている。
昔はさぞかしイケメンだったのだろうが、今やくたびれた、ただのオッサンだ。
「銃を使うと後々面倒になる。今夜はチンピラ同士のケンカのどさくさに紛れて刺されることになる。致命傷だ」
ドクターが口にするシナリオは、今夜確実に、現実社会で起こる予言だ。
そうなるように動くのが博人の仕事。
「これが凶器。処分はいつものように」
そしてドクターはテーブルの上に一本のナイフを置く。
もちろん仕事の下準備はドクターが全部終わらせている。
博人は、
「わかりました」
言葉少なに言って、ナイフを受け取ればいい。
なぜ、そのモニターの男が死ななくてはならないのか。
なぜ、銃を使うと後々面倒になるのか。
余計なことは何ひとつ聞かない。
聞けば、博人自身が、いつドクターの暗殺シナリオの上に乗ってしまうかわからないからだ。
ドクター自身も、ドクターの背後にも、計り知れない、底の見えない闇の世界が広がっている。
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