プロローグ

1/1
前へ
/14ページ
次へ

プロローグ

「高史くん、ごめんね」 ベッドの中にようやく落ち着いた深山かえでは、安心したように息を吐きながら言った。 貧血で倒れたかえでの顔色は透けるように白い。 今にも儚く消えてしまいそうだ。 小学5年生の雨本高史は、そんなかえでの風情にドキッとして、 「まったくだよ。かえで、ちゃんとメシ食ってるのか?」 思わず視線をそらしてしまう。 学校からの帰り道、道でうずくまっているかえでを発見して、ここまでどうにか背負ってきた。 だけど高史の身長が足りなくて、かえでの足を引きずるような格好になってしまったのは、いささかみっともない。 そしてそれが、どうにも悔しい。 今もベッドに寝かせただけで、これからどうして良いかもわからない。 だから、 「電話で母さん呼んだから。もう少しの辛抱な」 小学生の高史に出来ることは限られている。 まもなくやってきた高史の母親、雨本みどりは、 「大丈夫。かえでさんは貧血を起こしただけよ」 ポンポンと高史の頭をなでて慰めてくれた。 「でも念のため、かえでさんのお兄さんにも連絡いれておいたからね」 息子の年の離れた友人は、両親を早くに亡くして、お兄さんとふたり暮らしだと聞いた。 かえでの体調は落ち着いたけれど、お兄さんに、このまま何も知らせないわけにはいかないだろう。 案の定、かえでから教えてもらった電話番号に連絡したら、 「すぐに戻ります」 ふたつ返事で帰ってきた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加