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プロローグ
「高史くん、ごめんね」
ベッドの中にようやく落ち着いた深山かえでは、安心したように息を吐きながら言った。
貧血で倒れたかえでの顔色は透けるように白い。
今にも儚く消えてしまいそうだ。
小学5年生の雨本高史は、そんなかえでの風情にドキッとして、
「まったくだよ。かえで、ちゃんとメシ食ってるのか?」
思わず視線をそらしてしまう。
学校からの帰り道、道でうずくまっているかえでを発見して、ここまでどうにか背負ってきた。
だけど高史の身長が足りなくて、かえでの足を引きずるような格好になってしまったのは、いささかみっともない。
そしてそれが、どうにも悔しい。
今もベッドに寝かせただけで、これからどうして良いかもわからない。
だから、
「電話で母さん呼んだから。もう少しの辛抱な」
小学生の高史に出来ることは限られている。
まもなくやってきた高史の母親、雨本みどりは、
「大丈夫。かえでさんは貧血を起こしただけよ」
ポンポンと高史の頭をなでて慰めてくれた。
「でも念のため、かえでさんのお兄さんにも連絡いれておいたからね」
息子の年の離れた友人は、両親を早くに亡くして、お兄さんとふたり暮らしだと聞いた。
かえでの体調は落ち着いたけれど、お兄さんに、このまま何も知らせないわけにはいかないだろう。
案の定、かえでから教えてもらった電話番号に連絡したら、
「すぐに戻ります」
ふたつ返事で帰ってきた。
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