第1章

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「……親父」  俺は父親の祭壇の前で焼香を上げる。前から想像していたが、やはり何の感情も沸かない。ただ線香がゆらゆらと揺れており俺の心と同じようにぼやけているだけだ。 「今日は皆さん、ご足労頂きありがとうございます」  横で母親が声を上げる。父親が亡くなったといっても母はまだ70代だ。頭はしっかりしている。 「驚いた、あんたちゃんと挨拶できるのね」 「当たり前だろ。俺だってもう45だぜ」  俺はふてくされた子供のようにいう。母親にとって俺がいくつでも子供なのは変わりないが、初七日の挨拶を済ませただけで母親は俺を見る顔が変わっていた。 「でも、あっという間だったわね」 「そうだな」  俺は親父の体の一部が入った骨壷を見る。やはり俺の感情はぴくりとも動いてくれない。この骨からは親父の姿が想像できないのだ。  俺の親父は化学者で海外を飛び回っていた。家にいるのは年に2、3回で、常に色んな所を飛び回っていた。  親父は退職した後、いままでの生活が嘘のように家に滞在し出した。俺たちは常に顔を合わすようになったが何を話していいかもわからず、この年までほとんど会話もなく今、親父は遺影となって俺の前にいる。
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