第1章

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 それも、血の量からすると、相当深い。このままでは、火威のほうが、先に死ぬのではないか。  誰かいないのか、通信機を見ると、まず日付を確認してしまった。たったあれだけの時間であったのに、三週間が経過していた。 「……時季」  小声で呼びかけると、すぐに応答があった。 「大和、どこですか?」  ここは、どこであろうか。どこというよりも、何の間であろうか。廊下に出てみると、通りすがりの人が叫び声をあげていた。 「大和!がいます!」  俺は、知らない内に犯罪者にでもなっているのだろうか。見る人の全てが、叫んでいた。 「大和!」   聞きなれた声の主を探すと、長い廊下の先に響紀の姿を見つけた。 「響紀?」  響紀が走ってくると、俺に抱き着いて泣いていた。 「大和……良かった……」  俺は響紀を、力を込めて離す。 「それどころではなくて、医者!」 「怪我でもしましたか?病気ですか?」  響紀が、慌てて俺のあちこちを見て確認していた。 「俺ではなくて、火威さんだ」 「火威様?」  響紀が、俺に案内されるがままに広間に入り、倒れている火威を確認した。 「救急班を頼む!緊急だ!」  俄かに周囲が賑やかになると、沢山の人が集まってきた。 「緊急搬送」  やはり、傷は深かったか。応急手当はしてあったようだが、長くはもたない。だから、五羅が俺に託したのかもしれない。戦闘のまま、亜空間を抜けていたら、火威は死亡していただろう。 「大和、三週間。消えていましたよ」  響紀が、火威の搬送を終えると、俺の正面に立った。 「亜空間に飲まれた。五羅の元に行っていたよ。二時間くらいだったかな」 「龍造寺から、大和が一羅様に触れた瞬間に消えたと聞いた時には、絶望しましたよ。でも、絶望よりも、助けなくてはいけないと、心吾を待機させていました」  心吾は、どこにいるのだろうか。礼を言わなくて名いけない。 「心吾は?」 「向こうの部屋で倒れています。心配はいりません、疲労と緊張が原因です。休めば治ります」  三週間、一羅も目を覚ましていなかった。 「時季は?」 「雪家の仕事をしていますよ。でも、ソニアでの離着陸は難しいので、中型機で支援しています」  時季にも無理をさせてしまった。俺は、一羅の容態を見ると、心吾の元に歩いてみた。  心吾は、控室のような狭い部屋のソファで、うつ伏せの状態で眠っていた。 「心吾。助かったよ。ありがとう」
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