第1章

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 響紀が、人目が無かったら、抱いていたいと呟いていた。  そこで、五羅の事をいうべきか迷う。時季が揃ったときに、五羅の脅しを伝えておこう。  見慣れた町並みを歩き、やっと鬼同丸に到着すると、玄関を潜る。 「ただいま戻りました」  どこか、人気が少ないが、暫しの後に奥から幾つもの足音が聞こえてきた。  玄関を登ろうとしたのだが、その隙間も無い程に中から人がやってきた。どこから入ればいいのか。俺が、隙間を探していると、両膝をついた百武が、深く頭を下げていた。 「ご無事でお戻りになって、とても嬉しいです。おかえりなさい」 「すまなかった」  どう詫びていいのか分からないので、俺も深く頭を下げた。  どうにも入る隙間がないので、俺が後ろを確認する。玄関から出ようとすると、百武が、下駄も履かずに飛び出してきた。 「鍋を食べましょう。すぐに準備します」  腹は減っていないのだが、百武の必死な表情に、否定できない。 「はい……」  百武に腕を掴まれて、鬼同衆の大広間に通されていた。ここで、響紀と二人で鍋は寂しいであろう。 「大和、座って、卓袱台。鍋」  百武が、俺の腕を離さない。それに、卓袱台が多くないか。十個くらい出してきた。 「大和の無事を祝って、全員で鍋です」  かなりの人数が仕事に行っているので、人数は少ないが、全員を招集していた。 「やはり、五羅は正しい。鬼同丸には大和が必要でした」  百武に泣かれると、弱い。ここまで心配されるとは、思ってもみなかった。 「亜空間で、五羅のところに居たよ。もしかすると、亜空間から出て決戦になるのかもしれない。それまでに、百武!」 「はい!」  百武が、表情を引き締めた。 「皆へ戦闘の教育を頼む。決戦には俺達も行こう」  五羅だけに戦わせるわけにはいなかい。 「はい!」  五羅の状況を説明してから、孝太郎が亜空間から出る確率を考えてみる。 「蘇りは、孝太郎にとっては我慢できない事項でしょう。必ず、亜空間から出ます」  百武も、孝太郎に亜空間を学んでいた。孝太郎という人間を知っている。 「どこででも、戦える人材を頼む」  百武が、真剣なモードに切り替わっていた。鬼若衆をまとめている百武も、五羅の信頼している仲間であった。鬼若衆に置いたのは、五羅は百武に後輩を育てる、まとめる役目を任せただけだ。百武は、最も信頼している人物と言ってもいい。
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