第1章

16/81
前へ
/81ページ
次へ
「まあ、火威は、大和の元で眠ると言ったのだろう。ならば、叶えてやりなさい」  桜川が、諭すように言ってきた。  火威は、俺と桜川の会話が聞こえていたらしい。じっと俺を見つめた火威は、口元で少し笑っていた。 「雪家は……美人だよね。雪女みたいでさ。いい女の傍で死ぬってのもいいね」  消えてゆくだけでも、雪は降る。積もる雪ではなくても、鬼城にも雪が降る。 「雪は消えて、何も残せなくても、記憶に残る」  火威が言わないで欲しい。 第三章 君が泣く夜  雪の降り続く星、ミクロトームに到着すると、やはり雪であった。 「寒い」  寒いうえに、暗い。  時季と合流するために、外に出てみたが、一面に雪しかない。木々もなく、どこまでも、雪景色であった。どうしてこんな場所に、観測所など建設したのだろうか。単に、位置が良かっただけなのか。 「歩くのは無理か……」  新雪のせいか、雪に足が埋まってしまい、なかなか前に進めない。ソニアに戻ると、小型の飛行機に切り替えてみた。しかし、滑走路が無いと、着陸ができない。小型のヘリコプターに乗り換えると、風圧で雪を飛ばすので、地上スレスレでは前が見えない。 「でも、ヘリが一番かな」  ヘリコプターで雪山を超え、上空から観測所を確認してみた。かなり大型の設備で、屋根に巨大なアンテナが設置されていた。 「時季」  観測所の近くに、中型の宇宙船を見つけた。ソニアも観測所の近くに降ろしたかったが、平らな地形がなかったのだ。  観測所の横にヘリコプターを降ろすと、時季が走り寄ってきて俺を抱き上げた。 「おかえり、大和」  いや、仮にも頭領代行を抱きかかえるのはどうなのか。俺が、飛び降りると、時季が不思議そうな顔をしていた。 「時季、状況説明」 「ここ、俺しかいないからさ。もう少し、温めさせて」  時季が、仮設の宿舎に俺を招く。しかし、仮設であるので、異常に寒い。 「この寒さで、よく、インフルエンザのウィルスが生きていたものだ」 「ここが封鎖されているのが、理由だよ」  この観測所内で、インフルエンザが蔓延したのだ。そこで、雪家は観測所を閉じてみたが、遅かった。 「中は暖かかったのか……」 「まあ、人間も同じだよね。中は温かいよ。大和、今、ここで入れたい」  時季を無視して、仮設から観測所を見てみた。仮設のせいか、外よりは温かいが、十分に寒い。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加