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「まあ、火威は、大和の元で眠ると言ったのだろう。ならば、叶えてやりなさい」
桜川が、諭すように言ってきた。
火威は、俺と桜川の会話が聞こえていたらしい。じっと俺を見つめた火威は、口元で少し笑っていた。
「雪家は……美人だよね。雪女みたいでさ。いい女の傍で死ぬってのもいいね」
消えてゆくだけでも、雪は降る。積もる雪ではなくても、鬼城にも雪が降る。
「雪は消えて、何も残せなくても、記憶に残る」
火威が言わないで欲しい。
第三章 君が泣く夜
雪の降り続く星、ミクロトームに到着すると、やはり雪であった。
「寒い」
寒いうえに、暗い。
時季と合流するために、外に出てみたが、一面に雪しかない。木々もなく、どこまでも、雪景色であった。どうしてこんな場所に、観測所など建設したのだろうか。単に、位置が良かっただけなのか。
「歩くのは無理か……」
新雪のせいか、雪に足が埋まってしまい、なかなか前に進めない。ソニアに戻ると、小型の飛行機に切り替えてみた。しかし、滑走路が無いと、着陸ができない。小型のヘリコプターに乗り換えると、風圧で雪を飛ばすので、地上スレスレでは前が見えない。
「でも、ヘリが一番かな」
ヘリコプターで雪山を超え、上空から観測所を確認してみた。かなり大型の設備で、屋根に巨大なアンテナが設置されていた。
「時季」
観測所の近くに、中型の宇宙船を見つけた。ソニアも観測所の近くに降ろしたかったが、平らな地形がなかったのだ。
観測所の横にヘリコプターを降ろすと、時季が走り寄ってきて俺を抱き上げた。
「おかえり、大和」
いや、仮にも頭領代行を抱きかかえるのはどうなのか。俺が、飛び降りると、時季が不思議そうな顔をしていた。
「時季、状況説明」
「ここ、俺しかいないからさ。もう少し、温めさせて」
時季が、仮設の宿舎に俺を招く。しかし、仮設であるので、異常に寒い。
「この寒さで、よく、インフルエンザのウィルスが生きていたものだ」
「ここが封鎖されているのが、理由だよ」
この観測所内で、インフルエンザが蔓延したのだ。そこで、雪家は観測所を閉じてみたが、遅かった。
「中は暖かかったのか……」
「まあ、人間も同じだよね。中は温かいよ。大和、今、ここで入れたい」
時季を無視して、仮設から観測所を見てみた。仮設のせいか、外よりは温かいが、十分に寒い。
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