第1章

6/81
前へ
/81ページ
次へ
 かつて、家族を殺されて暴走し、宇宙戦争を巻き起こした男、孝太郎。こうして穏やかにしていると信じられないが、何十万人という人を亜空間で殺してしまった。 「会いたいね。武尊やジュリアンも元気かい?もう何年もたってしまったので、会っても分からないかな」 「いいえ、二人は、貴方と戦った時間のまま、止まっていますよ。決着をつけるまで、そのままかもしれません」  俺の両親は、そのままの姿で生きている。 「……でも、孫は沢山いますけどね」  孝太郎は、鬼城から排出してしまった、大罪人であった。大罪人が、こうして目の前にいるというのに、どうしてなのか、懐かしい。でも、孝太郎は、俺の両親を傷つけ、仲間を殺しているのだ。 「大和君、君も殺したいけど。後ろで、殺気があってね。のんびりともしていられなくなった」  優しい笑みのまま、孝太郎は怖い事を言う。  柔らかなくせ毛を跳ね上げた、優しい雰囲気の孝太郎、背が高くいつも笑みを浮かべていた。 「大和!どうして、こんな場所に居る?ここがどこか分かっているのか?」  走りこんで来たのは、纐纈(あやめ)であった。五羅の幼馴染で、鬼同衆の最初からのメンバーだ。よく笑い、よく喋る纐纈は、鬼同衆の中でも後輩の面倒をよくみてくれていた。 「……纐纈さん」  今の鬼城を知っているので、纐纈が懐かしく感じる。 「ボケっとするなって。前にいるのは、孝太郎だぞ!」  纐纈が、俺を担いで走っていた。 「大和。軽いな」  担がなくても、俺も走れる。でも、地理感がないので、指示を出すよりも担いだ方が早かったのかもしれない。  走ってみると、ここは実際の街ではなく、創造の街のような感じであった。レンガ造りの家の先には、藁屋根の農家があったりもする。空間を切り貼りして出来た町のようであった。 「ここで休憩」  かなり離れた場所で、纐纈が俺を降ろす。そこは公園のようになっていて、遠くで、人もいないのに無人のブランコが揺れていた。砂場の砂が、山になっているが、子供の姿はない。鬼城にもあるような、普通の公園であった。  この町には、どこにも人の姿は無かった。 「纐纈さん。五羅様もいるのですか?」 「いるよ。でも、ここも危険だよな……」  纐纈は周囲を見ると、俺をじっと見つめた。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加