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纐纈は黒く長いまつ毛に縁どられた、濃い目で、髪も黒い。顔も端正で、黙っていれば良家の出身であるのに、喋ると言葉使いは悪くうるさい。
「……大和。俺達は自分の置かれている立場を分かっているよ。ここは、亜空間で、時間も止まっている」
だからと、纐纈が言いかけると、孝太郎が公園の入口に現れていた。
「逃げる」
孝太郎は、大声で笑いながら、暗闇で公園を消しながら歩く。
「消えろ!消えろ!」
孝太郎の声が追いかけてくる。
「大和!全力で走れ」
どこまで走ったのか分からないが、古い巨大な建物の中を走っていた。この建物は、古い宇宙ステーションのような感じであった。今は、地面でも宇宙船は飛ぶが、昔は巨大な設備で宇宙船を飛ばしていた。
制御室や、観覧席、医務室、研究室、昔の言葉なので片言でしか読めないが、各種の設備が整っていた。
縦横無尽に走る通路、中央と側面に吹き抜けがあり、空中にも通路が走っていた。
「大和、こっち」
纐纈に呼ばれて、中央の部屋に入った。
「孝太郎も、巨大な建造物は消すのに時間がかかるからさ」
俺は、建物の全体像を計算する。
「……そうでもない」
この規模ならば、俺なら瞬間で消せる。
「……はああ、そうだったな。大和はゲートキーパーだったねえ」
「消せない物を出せばいいのか?」
孝太郎に消されまくっていたのならば、皆の亜空間の物も少なくなっているだろう。
「まあね」
「待った。大和、久し振り」
咄嗟の出現に、俺は言葉も出なかった。
跳ねまくったとがった髪、黒に派手な刺繍の半纏が、部屋の奥に浮かび上がってきた。
ややつり目で、でも優しく笑う。
「五羅……様」
五羅は近寄ると、俺の手を取り指輪を確認した。
「ああ、大和の指は細いな。少し調整が必要だったか。で、俺のプロポーズは受けてくれるのか?」
プロポーズ?最後の別れのような言葉しか、聞いていない気がする。
真剣に悩んでいると、五羅が笑っていた。
「大和が、躊躇もなく、何をしてもいいと言ったからな。経験を積んだよな……」
やはり、幻ではなかったのか。
「……時季と響紀のどちらだ?」
俺が答えられずに、固まっていると、五羅が察知していた。
「両方か。二人とも、死ぬ覚悟は出来ているわけだよな……」
五羅の目が燃えるように輝く。
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