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「……ろくな仕事をしていなかったよね?」
五羅が説教モードに入ったので、体を離すと、五羅は逆にぎゅっと抱きしめてきた。
「でも、暗殺ではなくて良かった。苦労しても、鬼同丸でやっているのだろ」
五羅のきつい目が閉じていると、どこまでも優しく見える。でも、見つめられているほうがいい。
もうどこにも行かないで欲しいが、ここでの時間が、鬼城にとって何日なのかは、考えると怖い。
「でな、大和。俺達は自力でこの空間から出るから、大和はお帰り」
分かっているが、帰れと言われると、悲しい。もう近くに孝太郎の気配がする。
「分かった……五羅様」
「五羅でいいよ」
やや困ったように笑う五羅は、鬼同丸の大広間で仲間を見ていた眼差しであった。どこまでも、憧れる存在、鬼城で一番強い男。
「五羅。早く帰って来い!」
「おうよ」
威勢のいい掛け声が、耳に響く。
「帰る!心吾!亜空間に手を伸ばして俺を捕まえろ!」
空間に手が伸びてくる。これは心吾の手だ。俺の存在を頼りに、本当に亜空間に手を伸ばしてきたのだ。
「いい仲間だ」
五羅に並んで、鬼同衆が揃っていた。もう一度、全員の姿を見られるなんて、夢のようだ。五羅の横で、弁慶のように立っている男は遂殿(とげどの)、先ほどの纐纈、腕を組んで笑っているのは、三改木(みぞろぎ)であった。後ろに、包国(かねくに)と梶佐古(かじさこ)の姿もあった。
「心吾、引き揚げろ」
心吾の手を掴むと、空間に引き上げられる。
つい、五羅に手を伸ばすと、五羅が火威(ひおどし)を俺に飛ばしてきた。
「五羅?」
五羅が頷いて、皆が火威に頭を下げた。
「大和、必ず生きていろ!」
それは、俺が言いたい。しかし、暗闇に飲まれていた。
第二章 淡雪二
真っ暗な亜空間を抜けると、昼間の空間に出ていた。ここは、どこであろうか。畳の間が、とても広い。遠くに襖があり、遠くに障子の窓が並んでいた。
足元を見ると、布団が敷いてあった。
布団?誰か寝ているのかとしゃがんで覗き込むと、そこには一羅が眠っていた。
一羅が居るということは、ここは鬼城で、居城であるのか。
一羅に聞こうとして、その土色の顔色を見つめた。
「おい、一羅。死んでいないよな?」
ふと横を見ると、火威が腹を抱えて、同じく青い顔をしていた。
「火威さん。怪我ですね」
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