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しかし、突然何故そんなことを聞いてくるのかと耕一は首を捻る。
誰もが知っているであろう守護精の事が、何か先ほどまでの話と関係があるのだろうか。
(まさか守護精の恩恵が飛べること、なんて言わないよな……?)
守護精の恩恵は様々とはいえ、人が飛べるなんてものは聞いたことはない。
与えられるものは、人が可能な事のみだと伝えられている。
「出来るだけ人には教えるなって言われてるんですけど……。驚かないでくださいね」
不思議そうな表情の耕一を尻目に小紅はそう告げ、そして。
「ツィツィ リベラディカ アケル ベア リュンクス セレルディア」
「……えっ?!」
小紅が聞きなれない言葉を呟く。
その言の葉と同時に、今まで何もなかったはずの彼女の膝上に忽然と、何かが現れた。
銀灰色の体に先が反り返った黒い耳。
“それ”はくくっと伸びをしたかと思うと、すぐに体を丸め、その場でくつろぎはじめる。
何度瞬きをしても“それ”が消えることはなく、それどころかジトリと無機質な眼で耕一を一瞥してきた。
その見た目は街中でよく見かけるあの生き物そっくりで。
「ね……猫……?」
「はい。楓っていいます」
小紅が慈しむようにその背を撫ぜると、心地良さそうに眼を細める。その仕草はまるで本物の猫のようだった。
「信じてもらえないかもしれないんですけど」
呆然としている耕一の目を見つめ、小紅は言葉を継いだ。
「……この子が私の守護精なんです」
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