1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
陽射しも柔らかく、春が始まりを告げ始めた三月のとある日。
今年から晴れて新大学一年生になる田原耕一は、親元を離れこの街で一人暮らしを始めることとなった。
その記念すべき初日、つまりは今日。
一人で生活するにあたって必要なものーー荷造りの際に入れ忘れたものや、今日の食料などを手に入れるべく、耕一は街へと繰り出していた。
付近の探索も兼ねて二、三時間ほど歩き回り、やたらとおみくじを勧めてくる神社でおみくじを引いたり、道中怪しげな勧誘にあったりもしたが、
なかなか自分好みのマグカップや、少し高めの箸、今晩の食糧などを手に入れることができた。
そして新生活に胸を踊らせ、ほくほくとした気分で歩く夕焼けに照らされた帰り道。
「ーーーーぅぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
「……ん?」
どこかから聞こえてきた絶叫に耕一は立ち止まった。
何だ何だと周囲を見回すが、辺りに人影は無い。
しかしどうにも悲鳴の主は近づいてきているようで、次第にその声は大きくなっていく。
どういうことかと首を傾げた彼。
不意にその頭上に影が差したかと思えば、突然ガツンと鈍い衝撃が耕一を襲った。
「きゃぁあ!!?」
「がっ?!」
あまりのことにそのまま重力に従って倒れこんだ耕一。
遠くなる意識の中、何かが割れたような音と。
「いたた……え、やだっ嘘、人!!? ご、ごめんなさいごめんなさい!!!大丈夫ですか!!!?」
誰かが必死に謝る声だけがやけに耳に残っていた。
最初のコメントを投稿しよう!