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「っ……ってぇ」
次に彼が目を覚ましたのは清潔感あふれる病室の一角で。
消毒液の匂いだろうか、病院独特のあの香りが鼻腔をくすぐる。
「…………?」
ぼやけた視界のまま体を起こし、手探りでメガネを探す。
何故自分がここにいるのか、何故全身がこんなにも痛いのか。
状況は分からないが、一先ずメガネを探り当てた耕一。
メガネをかけ、ぼんやりと辺りを見回していると、不意にからからと仕切りのカーテンが開いた。
「お邪魔します……」
そう頭を下げながら入ってきたのは、制服姿の見知らぬ少女だった。
クロスしたリボンで胸元を飾り、白梅色の長い髪をポニーテールにした彼女は、耕一が目を覚ましていることに気がつくと、胸に手を当てて深い安堵の息をついた。
「よ、よかったぁ……死んじゃったかと思った……」
高校生くらいの年齢だろうか。
何やら物騒なことを呟く少女は、とても病院の関係者には見えず。
知り合いでない事も確かで、姿や顔に見覚えは無い。
しかし一つだけ、不思議と彼女の声には聞き覚えがあった。
「……あの、すみません。どちら様ですか?」
「あっはい!初めまして!私、多岐坂小紅(たきさかこべに)といいます!!」
「ど、どうも……。田原耕一(たはらこういち)です」
一先ず状況を進展させようと素性を尋ねてみれば、元気いっぱいに名前を名乗られ、つられて耕一も名乗り返す。
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