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(多岐坂、小紅……?)
少女の名前を頭の中で反芻するが、やはり覚えは無く、耕一は頭を捻る。
顔も名前も知らないというのに、声にだけ聞き覚えがあるのはどういうことなのだろうか。
いくら脳内の引き出しを引っ掻き回しても答えが見つからず、もやもやとしている耕一と、
いつの間にやら見舞い客用の椅子に腰掛けていた少女。
そんな彼女が先程とは打って変わっておずおずと口を開いた。
「あの……お身体は大丈夫でしょうか……
? どこか痛いとかは……」
「えっ? あー……頭と背中が痛い……です」
(そういえば……)
ズキズキとした痛みと共に、ふっと耕一の頭をよぎったのはここで目覚めるより前、意識が途絶える直前の記憶。
はじめはぼんやりとしたそれは、思い出そうとすればじきに鮮明なものになっていく。
買い物を終えて、家路についていた黄昏時。
(そうだ、あの時悲鳴が聞こえて)
何事かと立ち止まった、その直後に自分を襲ったかなりの衝撃と薄れていった意識。
そして、耳に残った誰かの慌てた声。
さぁっと頭の靄が晴れ、疑問と答えが一本の線で繋がった。
その声色はまさしく目の前の少女と同一のものだった。
「もしかしてあの時の……?」
「…………はい。すみません、私の不注意でこんなことになってしまって……」
謝罪と共に頭を下げる少女。
どうやらあの悲鳴の主は彼女で間違いはないようだった。
後、この口ぶりからするにあの衝撃の原因も。
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