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「や、やだなー人が飛ぶわけないじゃないですか」
冗談ですよ、冗談、といいながら小紅はわたわたと手を振る。
しかしその目は泳ぎ、額には汗が滲んでいる。
どうやら彼女は嘘をつけないタイプのようだった。
「え、じゃあ僕の上に落ちてきたってのも冗談だったんですか? 」
「あ、いえ、それは……冗談じゃないんですけど、えっと……」
「なら一体、何があったんですか?」
嘘をついてまで理由を隠されると、尚更気になって仕方がなく、自分でも意地が悪いと思いながら質問を重ねる。
耕一の追及にうっと言葉に詰まり、答えを探してしばし黙り込んだ小紅。
しかし良いごまかしが見つからなかったようで、観念したようにため息をついた。
「……ごめんなさい。ちゃんとお話しします」
そう言って顔を上げ、今度はしっかりと、澄んだ紫の瞳で耕一を見据えた。
「田原さん、守護精思想って知ってますよね?」
「へ? あーはい。まぁ」
守護精思想とは、全ての人間には姿は見えない守護精と呼ばれるモノが宿っており、
少なくとも一つ、何らかの恩恵を与えてくれているという思想だ。
例えば計算がとても早いだとか、絵が上手い、運動神経がずば抜けているとか。
そういったものから目が良い、鼻が利くといったことまで、その恩恵は多岐にわたると言われる。
実際、その思想は広く世界で信じられており、耕一もまたその恩恵を実感しているうちの一人だった。
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