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上條佐代子は、良くも悪くも目立つ存在だ。
高校2年のくせに、まるでもう大人のような体をしている。それだけでも女生徒の評判は悪い。なにかとすぐ、小競り合いが発生する。
身体だけでなく、上條は顔も良い。男子生徒だけでなく、職員室でもひそかなファンがいるくらい綺麗な女生徒だが。
担任の私としては、異性の生徒がそのような存在感を持っているというだけで、扱いづらいの一言に尽きよう。
教師歴5年。
私も、ようやく教壇で思うような授業が出来るようになり、クラス運営の面白さもわかってきたところだ。
年度の初めに、『川崎先生に上條を預けたいんだが』と学年主任から言われた時にはドンと来いとさえ思ったものだが。
……こうも扱いづらいとは思わなかった。
生徒指導室で、上條に抗議する女生徒らと話を終えたばかりの私は、今度は上條1人を前に、彼女を諭さねばならないのだが。
正直、ただ、憂鬱以外の何物でもない。
鳶色の瞳でジッとこちらを見ている上條に、それでも私は諦めて向き合った。
「上條。お前、悪いと思っていないだろう」
上條が、セミロングの黒い髪をセーラーの肩口でサッと後ろにはく。そんな仕草もひどく優等生という風に見える。
実際、成績は都内上位だし、1年生の後半では、突然行方不明になったクラスメイトの代わりに学級代表を務めたような子だ。
だが……一種のコミュニケーション能力に関する不具合を疑いたくなるほど、特殊な一面がある。
「悪い、悪くないという問題ではないとは思っています。
邪魔だったから、邪魔と言っただけですから」
ウソはついていません。
平淡な声で言う。
コレが実は上條の口癖で。
クラスメイトが上條を真似る時、必ず言う言葉だ。
確かに上條には道理としての非はない。
トイレの手洗い前でたむろっていた女子たちに、「邪魔だから消えて」と一言、思ったままを口にしただけなのだから。
……一事が万事この調子でとにかくトラブルが絶えない。
面倒だな、と思う。
正直、宇宙人と話している気分になるからだ。
この手の話合いも既に5度目だ。何度話しても平行線だと、もう、私にも判っている。
少し苛立ちながらも、私はそれを押し隠して穏やかに彼女に呼び掛けた。
「私は君を心配してるンだ。上條」
……だが、この一言に。
急に、上條の様子が変わった。
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