第1章

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 アレンジはコンピュータでやることが増えたけど、この曲はなんとなく、最後までピアノでやりたい。  こちらをうかがうような、視線。  黒い長い髪をなびかせて、鉄格子の奥から立ち止まって見ている細身の女性。  自分も毎日、決まった時間にピアノを弾くわけではないから、いつも、彼女を見つけることはない。  わかっているのは彼女は見ている時間帯がいつも違うこと。だから、いつのまにか、あ、いたんだって感じ。   気がついた初めの頃はファンかストーカーかって考えたことがあったけど、すぐに違うことがわかった。  彼女は長居はしない。立ち止まって、ちらっと見て、曲を確認したら去るくらいのスタンス。  ただ、ここ、二、三日は同じ時間にこの曲を弾いている。  彼女は格子に近づき立ち止まり、この曲が途切れたら、去る。  修正しながらだから、通しで弾くことは、あまりない。  彼女もこの曲が好きなのかな。  たぶん、そう。  いつか、通しで聴かせたい気がするけど、神出鬼没だからな。  あれ、誰?  気がついたのは、その女性の持っているバック。  彼女と同じだけど、髪が無くなっている。というか、すごいショートカットになってた。  何があったんだろう。
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