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意外と悪くない場所だけど、一人でいるには、ちょっと居心地が悪い。
あんまりきょろきょろするもんじゃないよな、やっぱり。
大人しくカウンターに置かれてあるカラフルな酒の瓶を眺めながら、テンポのよいBGMに耳を傾けていると、隣の椅子がカタンと揺れた。
秀人が戻ってきたのかと思い顔を上げて、驚いた。
「一人?」
スーツ姿の男。
年は二十代後半ってくらいだろうか。
椅子に手を掛けたまま、呆けている自分を見下ろして、にこりと微笑んだ。
「隣、いいか?」
「え・・・・?」
なんのことだかわからなくて、おもわず眼を瞬かせた自分に、男はやっぱり笑顔を向けて、腰を下ろした。
近くにいるウェイターに飲み物を注文して、ゆっくりとこちらに視線を向けた。
男の自分でさえ、おもわず見とれてしまうほどのイイ男だ。
男が憧れてしまう男の理想像って、きっとこんな感じなんだろう。
爽やかで、少しワイルドで・・・・。
「甘いもの好きなの?」
「へ?」
「それ」
固まっていた自分に、にこりと笑った男が指差したのは、すでに空になっているケーキの皿が二枚。
もちろんそれは、秀人と自分の分で。
「あ、連れがいるんで・・・・」
「彼氏?」
「は?」
なにをいわれているかわからなくて、首を傾げた。
彼氏って誰のことだ?
そこまで考えて、ハッと、思い出した。
ここはゲイバーだ。
「あ、いや、ただの友達で・・・・いまちょっとトイレいってて」
「ああ、そうなんだ」
いったい、なんなんだろう。
とてつもなく落ち着かない。
知らない男に話しかけられて、しかもその男が究極にイイ男で。
なんだか自分の状況が掴めなくて戸惑っていると、タイミングよくウェイターが飲み物を運んできた。
なぜだかトレイには二つのカクテルが乗っていて、それを男と自分の前に置いて、ウェイターは営業用スマイルで立ち去っていく。
「あの・・・・」
綺麗な鮮やかな色のカクテル。
はっきりいって注文した覚えはない。
顔を上げて男を見ると、男は笑いながら口を開いた。
「奢りだから、気にしなくていいよ」
「え?」
「うまいよ、それ」
「はあ・・・・」
曖昧に返事をすると、男はなぜか愉快そうに笑った。
「なにがなんだかわかんないって顔してる」
そういわれて、ドキッとした。
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