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この頃の記憶の中で常に思い出されるのは、我が家の庭に円形に植えられていたおびただしい数のラッパ水仙なのだ。
庭には柿の木が何本か植えられていて、その根元の部分を丸く小石で囲んである。その小石の囲いに沿うようにラッパ水仙が咲くのだった。黄色一面に咲くのだった。
子供心に、この時代の、このエキゾチックな花が自慢だったように思う。近所でもあまり見掛けない花の姿が嬉しくて、手折るのも勿体なくて大切に眺めていたように思う。
同様に花立葵の群れ。濃い赤に紫、ピンク、白ーー。これも庭の一隅にたくさん咲いていた。
花は落ちて雨に濡れると、溶けたように汚らしくなってしまうのだが、まるで鼻紙細工のようにくしゃくしゃと、そして透明感がある。この花びら一枚一枚が美しく、やはりとても大事にしていたように思う。
そしてジキタリス。
「心臓の薬になるんよ。でも根っこには毒があるから」
と、教えてくれたのは母だったと思う。何よりもこの花が好きで、大切で別格だった。
暗紅色の小さなとんがり帽子のような花がびっしりと上まで連なり、上部の蕾は白くてまだ口をつぐんでいるが、下の方から順々に開いていくのだ。
これも近所の、それも田舎の庭ではほとんど見かけることのない花だった。たしか暗紅色のものと白色のものがあり、毎年この花を見るのが楽しみだったように思う。
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