反逆者は楽園からの逃亡を図る

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 春休みの俺に合わせ、壮介が突然リフレッシュ休暇を取ったのは昨日のこと。あと一ヶ月ぐらい我慢すれば大型連休がくるっていうのに、それだとどこに行っても人が多いからと言われて無理やり連れ出された。  見晴らしはいいけれど時期尚早で、風邪を患いそうなほど強風が吹き荒れる岬を散策しているのは俺達だけだった。男同士で握り合う手を誰かに見られることはない。周りに気兼ねすることなく外を歩くため壮介はこの場所を選んだのだろう。  足場の悪い道なき道を歩く。少しふらついただけで壮介は俺の肩を抱き、腰に手を回し、あまつさえ抱っこしてまで支えようとする。いろんな文句が浮かんでくるけれど俺は黙って付き合った。  昨日の晩は近くのコテージに泊まった。そこは夏場の利用が中心で、林の中に点在する他の丸太小屋に光はなかった。ここにも壮介の意図が垣間見える。  ホテルや旅館で従業員の人達に世話を焼かれるよりも、カギだけもらったら後は干渉されない方が都合が良かったのだろう。小屋には俺達しかいない。小屋に近づく者もいない。二人だけの世界で散々喘がされて今日は足腰立たないというのに、朝から手つなぎデートに連れ回されているわけだ。  けれど壮介の満たされている顔を見ると文句は言えなくなる。  海から離れると風は弱まり、春の光が優しかった。明るい林道をゆっくり歩く。鳥の囀りに耳を傾けながら話をした。  二人だけの時間は久しぶりだが、積もる話なんて特にない。25歳の壮介と8つ離れた俺では噛みあう話なんて限られているけれど気にしたことはなかった。壮介は穏やかな話し方で、今までに見た綺麗な景色やそこでの遊び方、俺を連れて行きたい場所なんかを話している。  お互いの日常は垣間見えない。会えない時間の出来事とか、昨日まで何を考え何に悩んでいたとか、暗黙の了解のように一切出さない。  普段の生活からは切り離された世界。日常の息苦しさを忘れ、逃避行の清々しさを実感する。  空を覆う木の葉が太陽の光を浴びて煌めく。綺麗だった。このまま時間が止まればいいのにと思う。
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