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小さな白い教会は朽ち果てて長い年月が経っており、床はスモークを張ったように白い埃に覆われていた。ステンドグラスから入り込む光は曇っている。
薄暗い室内は、それでも神聖な空気を帯びていた。
壮介の後に従って壇上の前に並ぶ。十字架に張り付けられたキリストが俺達を見下ろしていた。
繋いだ手を壮介が持ち上げる。顔を近づける壮介は、俺の手の甲にキスをした。
「誓うよ。永遠に愛してる」
大事なものを包み込む……、と言うよりは強く捕えて離さないという堅い意志が見られた。
俺は壮介と十字架に張り付けられたキリストを見比べた。
十字架の前で手を取り合い、愛を誓い合う。これこそキリストに対する最大の冒涜なのかもしれない。
ならば、罪深さを神の前に懺悔し許しを乞うのではなく舌を出して抗い続けよう。
「ユウ、愛してる」
誓いの言葉を呑み込むように深い口づけをする。
そのとき世界は崩れた。鼓動の聞こえる日常、非現実的な美しい景色、色づいた現世のすべてが崩れ落ちる。
世界が瓦礫だけになっても同じ言葉を紡げるか?
壮介は笑顔で「はい」と答えた。
神の御前でありながら躊躇うことはなく、これ以上の幸せはないという顔を荘介はしている。
俺は呆れた笑いしか出てこない。
俺達以上に罪深い生き物はいないというのに……。
神に逆らってもなお、世界中の幸せを一人占めにしたかのように微笑む壮介が、憐れで、愛おしいと思う俺もまた、神の反逆者に変わりはない。
もう一度深く交わる。
兄弟の血が流れる手を取り合って―――。
fin.
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