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汝、愛の音を聴け
愛の音を聴いたことがあるかい?
「誰か助けて!」なんて赦しを請わないで。
ぼくの話をどうか聞いてほしい。
きみの言葉が殺したんだよ。
きみの愛が彼女の命を切り裂いたのさ。
彼女の愛を忘れたもうことなかれ。
その死を忘れたもうことなかれ。
「彼に愛されているの」
彼女の口癖だ。
「彼はわたしがいないとダメなのよ」
彼女がぼくに言った。まだ生きていたころだ。
「幸せなんだね?」
ぼくはおずおずと訊く。
「彼と一緒にいるときが一番幸せなの」
朝日に照らされてきらめく水面のような瞳で答えた。
幸せにかがやく彼女を見るのが、ささやかな歓びだった。
「とても愛らしいね」
きみが彼女に口ずさむ。
「ユキは最高に可愛いね」
最高の愛にまさるものはない。愛が最も気高い感情だからね。
「彼の愛なしでは生きられないの」
彼女が雪のように白い頬を幸せに染めた。
幸せに彩られた彼女を見ることが、なによりも嬉しかった。
それなのに──
きみは彼女を罵った。心ない言葉で責めたんだ。
「どうして言うことが聞けないんだ!」
ささくれた言葉が彼女に刺さる。
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