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「ユキなんか見たくない。どこかに行ってくれ!」
張り裂けそうな言葉が彼女を壊した。
凍りついた瞳で体を震わせる彼女を、見ることができなかった。
「もう彼に愛されていないの」
心が壊れた言葉だった。
「彼はわたしがいない方が倖せなのよ」
うつろな声でぼくに告げた。でも手を差し伸べられなかった。
「気にしないで」
ぼくはなぐさめるように言った。
本当は“ぼくがいるじゃないか”と言いたかったのに。
彼女の凍った瞳には愛しい人しか映っていなかったんだ。
「さよなら」
彼女が別れを切りだしたときも、きみは聞こえないふりをしていたね。
その言葉の余韻を残して、ふいに彼女は消えたんだ。
しばらくして──
彼女が廃ビルの屋上から身を投げたことを知った。
きらめく水面のような瞳も、雪のように白い笑顔も、道路に打ちつけられて潰れたんだね。
いたたまれなかった。
涙が枯れたからじゃなくて、ぱさぱさに心が渇いていたんだ。
彼女がみずから命を絶ったのに、きみは認めようとしなかったからだよ。
「ユキはどうして死んだんだ!?」
うろたえた声のきみを、痛いほど見た。
“きみが彼女を殺したんだよ!”
心で叫んでも、あえて口にはしなかった。
「もうユキの魂は天に召されたんだ」
慈しみの言葉を口にするきみに、ぼくは心でかぶりを振った。
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