第1章 現実

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「…ん」 質素なベッドで寝返りをうつ。 この部屋は真っ白な質素な部屋だ。 前までは他の部屋が私の部屋だった。 私の家が貴族の身分なため、その部屋はとても豪華だった。 私の病が見つかってからは、感染する恐れもあるから、と、私の家の本館から離れた小さな塔に隔離されている。 私はここでただずっと寝て過ごしているだけ。 特に何をするわけでもない、退屈な毎日。 元々私は体が弱く、少し運動しただけでも倒れるような人だった。 さらにこの病のせいでもう歩くのもどこかに捕まらないと難しくなった。 しかし別に歩けなくなっても何も思わなかった。 そんな自分に、少し驚きながらも衰えていく身体に全てを任せた。 「入るわよ」 母の声だ。 正確に言えば父の二人目の妻で、継母だ。 ちなみにレノアとは私の事だ。 「調子はどうかしら?」 「今日は良い方です」 「そう」 彼女は私のベッドへ歩み寄り、こう言った。 「私のアイユを早く元に戻してちょうだい」 またそれか。 アイユというのは継母の連れ子、つまり私の義理の妹で、この頃アイユの様子がおかしいのを継母は私のせいにする。 断じて私はアイユに何も入れ込んではいないのだが、継母は全ての責任を私に押し付ける。 「…はい」 でも私は知っている。 アイユは小さい頃彼女の母から虐待を受けていた事。 私の父とアイユの母が結婚して環境が変わり、今まで保てていた平静が壊れてしまった事。 それに、医者の話を聞くと私の病はもう治らないらしい。 もう先も長くなく、この部屋で一生を終えると。 だから私はアイユを助けたくてももう時間は無いし、何も出来ずじきにこの世を去ることになる。 「…あの人、まだ見つからないの」 あの人というのは私の父の事だ。 私の父は二年前ふらりと家を出てから、帰ってこない。 私の産みの母は私が物心つく前に亡くなり、行方不明な父に頼ることが出来ず、アイユを助けられない状況なのだ。
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