第1章 現実

4/8
前へ
/15ページ
次へ
夜。 今日は風の無い穏やかな満月だ。 月の光に照らされて、カーテンが明るくなる。 私はもううとうとと眠りにつく頃だった。 急に風がビュオッと窓を叩いた。 さっきまで風など無かったのに、不思議だ。 気になって起き上がり、カーテンを開け、外を見る。 月は光り特に何も無さそうだが、風が強い。 私は窓を開けた。 風は少し弱くなっていた。 ゆっくり大きく息を吸う。 今までの数少ない出来事が走馬灯のように思い浮かんでくる。 もう、あと少しなんだなあ… やっぱり、このまま何も出来ずに人生が終わるのは寂しい。 このまま死を待つだけなんて、悔しい。 私はとある伝説を思い出した。 「アバンチュール」という伝説だ。 悪の魔王がメアリーという姫を連れ去り、それをカリルッタとその仲間達が助けに行くためにアバンチュール・イルという島を冒険するという単純な話だが、それには何か私を引き込ませるものがあった。 姫を助けるための、島での冒険。 本当の話かどうかもわからないが、私はそんな世界観に憧れた。 「誰か私を、連れてって」 そう小さく呟いた瞬間、また風が強くなった。 部屋の花瓶がガタガタと音を立てて揺れる。 驚いて急いで閉めようとした時の事だった。 急に少年が窓から部屋へ転がり込んできた。 私は目を見開いた。 この部屋がある塔は高く、少なくとも10メートルはあるはずだ。 周りに飛び移れるような建物もないし、空から飛んできたかのように考えてしまう。 そんな事ありえるのだろうか? 「ううー…いってェ…どこだここ?」 少年は頭を掻きながらあたりを見回す。 緑色のハットに肩が破けた大きめのVネックTシャツ、そして端が切れっぱなしになっているデニムのハーフパンツに、茶色いショートブーツという冒険にでも行くかのような格好をしている。 それはまさに、伝説の中のカリルッタの格好そのものだった。 「ん?」 少年は私に気がついた。目が合うと、少年はニッと笑った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加