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夜。
今日は風の無い穏やかな満月だ。
月の光に照らされて、カーテンが明るくなる。
私はもううとうとと眠りにつく頃だった。
急に風がビュオッと窓を叩いた。
さっきまで風など無かったのに、不思議だ。
気になって起き上がり、カーテンを開け、外を見る。
月は光り特に何も無さそうだが、風が強い。
私は窓を開けた。
風は少し弱くなっていた。
ゆっくり大きく息を吸う。
今までの数少ない出来事が走馬灯のように思い浮かんでくる。
もう、あと少しなんだなあ…
やっぱり、このまま何も出来ずに人生が終わるのは寂しい。
このまま死を待つだけなんて、悔しい。
私はとある伝説を思い出した。
「アバンチュール」という伝説だ。
悪の魔王がメアリーという姫を連れ去り、それをカリルッタとその仲間達が助けに行くためにアバンチュール・イルという島を冒険するという単純な話だが、それには何か私を引き込ませるものがあった。
姫を助けるための、島での冒険。
本当の話かどうかもわからないが、私はそんな世界観に憧れた。
「誰か私を、連れてって」
そう小さく呟いた瞬間、また風が強くなった。
部屋の花瓶がガタガタと音を立てて揺れる。
驚いて急いで閉めようとした時の事だった。
急に少年が窓から部屋へ転がり込んできた。
私は目を見開いた。
この部屋がある塔は高く、少なくとも10メートルはあるはずだ。
周りに飛び移れるような建物もないし、空から飛んできたかのように考えてしまう。
そんな事ありえるのだろうか?
「ううー…いってェ…どこだここ?」
少年は頭を掻きながらあたりを見回す。
緑色のハットに肩が破けた大きめのVネックTシャツ、そして端が切れっぱなしになっているデニムのハーフパンツに、茶色いショートブーツという冒険にでも行くかのような格好をしている。
それはまさに、伝説の中のカリルッタの格好そのものだった。
「ん?」
少年は私に気がついた。目が合うと、少年はニッと笑った。
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