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「んー、み、三日ね」
「ハァ? 俺が一体どんだけ潜ってたと思ってんですか、春からですよ、春から! 休みはない、有休は流してばっか、おまけに常に命がけ。こんな状態で、任務後にインターバルも取れないなんて、アンタ、俺を殺す気か!」
「じ、じゃあ奮発して五日あげるから。ごめんねえ、アンダーカバーは人員不足でさ」
京田は拝むように手を合わせた。
「頼むから、辞めないでね。君みたいにSAT出身で体力ある優秀な人材、中々いないんだよ」
「死んだら益々人員不足ですよ? 他の奴等より危険度高い分、休まなきゃ死んじまう」
「そうなんだ。そうなんだけどね、今、ちょっとマズイんだ」
京田は整った長い眉を寄せると、胸元から金色のシガレットケースを出した。続けて中から細葉巻を取り出し、慎吾をちらりと見やった。
「吸う?」
「頂きます」
「煙草吸うと体力落ちるよ」
「じゃあ勧めんな」
仏頂面の慎吾に一本くわえさせ、続けてその先端へ、ダンヒルのライターを近づけた。軽い着火音が響き、互いの煙草の先端が燃える。やがて紫煙が広がり、バニラに似た甘い芳香が満ちた。
「良い味だろ? キューバ産なんだ」
「美味い……良い趣味してますね」
「行きつけのシガーバーから、こっそり分けてもらったんだ。今度、一緒に行こうか」
「じゃあ、そのうちに」
あてのない口約束は、どちらにとっても社交辞令のようだ。しばし芳醇な煙を味わってから、京田はようやく切り出した。
「先日管内であった襲撃事件の話、聞いてる?」
「概要だけですけど」
「そうか」
京田は目を伏せて紫煙を吐いた。
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