Ready 1

5/5
前へ
/223ページ
次へ
「んーっと、マル暴のはぐれヤンキー純情派?」 「またアイツですか! つうか、何で捜一の人間じゃなくて、あのバカなんですか?」 「いやあ、マル暴の課長から、色々経験させてやってくれって頼まれちゃってさ」 「だからって、何で? 俺と相性悪いっての、知ってますよね」  本気のイラつきが舌打ちになる。だが京田は折れなかった。 「そこをさあ、何とか頼むよ。ほら、慎吾ちゃんのアバズレ的な魅力でさ」 「は?」 「だって、今までの、彼以外のバックアップは全部食っちゃったんだろ?」  もれなく聞いているんだとニヤつく京田へ、慎吾はムカついた視線を送った。 「チッ……つうか、俺も相手は選んでるんで」 「じゃあ彼は?」 「論外」 「そう、それは残念だね。でも、仕事だからさあ、今回だけにするから頼むよ」 「……ハイハイ」  上司から言われれば、基本的に拒否は出来ない。それが警察組織というものだ。任務の選択に部下の意見や感情は反映されない。  他に簡単な打ち合わせを済ませ、慎吾は京田にバイバイされながら取締室を辞した。 「またあのバカと組むのかよ……」  玄関へ向かう途中で、苦々しい気持ちがつい洩れた。  ヤンキーというあだ名の通り、そのマル暴の刑事は気が荒く生意気だった。  仕事は出来る。正義感も、責任感も強い。しかし捜査の主導権はこちらにあるのに、素直に指示に従うという態度がまったく見られない。  おまけに向こうも慎吾を良く思っていないのが、彼の全身からありありと伝わって来る。そんな相手と組むのは正直、非常に苦痛だ。  いら立ちまぎれに壁を軽く殴りつけながら階段を降りると、すれ違う内勤の連中が訝しげにこちらを見て来る。慎吾は眼を合わさないようそっぽを向き、足早に一階を目指した。  それにしても、キナ臭い話だ。  新興勢力の台頭、塗り替えられつつある裏の世界のパワーバランスを、絶対に見過ごす訳には行かない。小さな芽のうちに、潰さねばならない──  潜入明けで疲労の濃い慎吾に、再び強い想いがたぎった。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加