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「んーっと、マル暴のはぐれヤンキー純情派?」
「またアイツですか! つうか、何で捜一の人間じゃなくて、あのバカなんですか?」
「いやあ、マル暴の課長から、色々経験させてやってくれって頼まれちゃってさ」
「だからって、何で? 俺と相性悪いっての、知ってますよね」
本気のイラつきが舌打ちになる。だが京田は折れなかった。
「そこをさあ、何とか頼むよ。ほら、慎吾ちゃんのアバズレ的な魅力でさ」
「は?」
「だって、今までの、彼以外のバックアップは全部食っちゃったんだろ?」
もれなく聞いているんだとニヤつく京田へ、慎吾はムカついた視線を送った。
「チッ……つうか、俺も相手は選んでるんで」
「じゃあ彼は?」
「論外」
「そう、それは残念だね。でも、仕事だからさあ、今回だけにするから頼むよ」
「……ハイハイ」
上司から言われれば、基本的に拒否は出来ない。それが警察組織というものだ。任務の選択に部下の意見や感情は反映されない。
他に簡単な打ち合わせを済ませ、慎吾は京田にバイバイされながら取締室を辞した。
「またあのバカと組むのかよ……」
玄関へ向かう途中で、苦々しい気持ちがつい洩れた。
ヤンキーというあだ名の通り、そのマル暴の刑事は気が荒く生意気だった。
仕事は出来る。正義感も、責任感も強い。しかし捜査の主導権はこちらにあるのに、素直に指示に従うという態度がまったく見られない。
おまけに向こうも慎吾を良く思っていないのが、彼の全身からありありと伝わって来る。そんな相手と組むのは正直、非常に苦痛だ。
いら立ちまぎれに壁を軽く殴りつけながら階段を降りると、すれ違う内勤の連中が訝しげにこちらを見て来る。慎吾は眼を合わさないようそっぽを向き、足早に一階を目指した。
それにしても、キナ臭い話だ。
新興勢力の台頭、塗り替えられつつある裏の世界のパワーバランスを、絶対に見過ごす訳には行かない。小さな芽のうちに、潰さねばならない──
潜入明けで疲労の濃い慎吾に、再び強い想いがたぎった。
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