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「初めまして。私、阿部弘美っていいます」
ハキハキとした明るい声でそう言った彼女は、セーラー服の襟に届くくらいのポニーテールを揺らしてピョコンと頭を下げた。
「は、はぁ……」
突然のことにめっぽう弱い僕は間抜けな返事をしながら頭を掻くくらいしかできない。
「津島くんって、いつも私の近くに名前があるでしょ? どんな人かなって思って周りに聞きまくってたんだ~。やっと会えた!」
アーモンドみたいな綺麗な形の瞳をキラキラさせて右手を差し出してくるから、僕もロボットみたいな動作で右手を出した。
「弘美~?」
「先行くよ~」
「うん、ごめんね。後で行く~!」
右手は僕の手を握ったまま左手で友達に手を振る彼女は、いま張り上げた声の半分以下の声量でこっそり耳打ちしてきた。
「今度、数学教えてくれる?」
「へ?」
「数学、得意だよね? 私、数学では津島くんに勝てたことないんだ」
え!?
駄目だよ!
そんなことしたら、ますます僕はキミに勝てなくなるじゃないか!
駄目に決まってる!
ってゆーか僕、数学そんなに得意じゃないし!
そう言おうと息を吸った僕は、彼女がウィンクしながら「お願い」と言った言葉に条件反射で頷いてしまった。
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