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「もっと急いでってば! 今日はアイスが31%オフなんだから、早く行かないと混んじゃうよ!」
「なんで僕が勉強も教えてアイスまで奢らなきゃならないんだよ」
必死で自転車をこぎながら、細くて柔らかい腕を後ろから僕の腰に絡みつかせている存在に文句を垂れる。
だいたい、弘美のほうが成績がいいのに僕の方が教えなきゃいけないなんて、本当に理不尽だと思う。
「……津島くん。順位表っていつも総合のやつしか見たことないでしょ」
「え?」
「数学の順位、見たことある?」
後ろの声に集中しすぎたせいか、「ほらほら、スピードが落ちたよ」と背中を叩かれる。
「津島くんって他の教科は私に勝ったり負けたりなんだけど、数学だけは絶対に3位以下だから、そこで勝負がついちゃうんだよね」
そんなの……。
ちゃんと見たことなかった。
「人間ってね、他人に教えることで、それがもっと理解できるようになるんだって」
へえ、そうなんだ。と相槌を打ちたいけど、もうかなり息があがってきた。
熱い日差しを受けた額から、たらりと汗が流れ落ちる。
「だから津島くん、次の期末テストでは点数伸びてるはずだよ」
「どうしてそんなこと……」
「だって、一緒に成長したいじゃない」
アイス屋さんに着いたところで、弘美はプリーツスカートを翻してひらりと飛び降りた。
「ってことで、感謝の代わりにダブルコーンひとつね!」
そう叫びながら既に行列ができている売り場へと走っていく背中に、「そんなの結果がでてみないとわからないじゃないか」と呟きながら、無意識に財布を探る自分に気が付く。
「はやく~」
「はいはい」
しょうがないなあ、というふうに足を速める。
列の後ろに並んでニコニコと手を振る彼女の笑顔を見ると、こちらも思わず顔が綻んでくるのがわかって、咄嗟に下を向いた。
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