【腕】

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 もう、ダメッ。 それ以上はダメッ。  そう思うのに。 激しい声をあげて、私は「それ」を受け入れている。  私の膝を開かせた手が、私の片膝を、より私が手を受け入れやすいように大きく曲げてあげさせた。  お風呂場の眩しい照明の下、有り得ない自分の恰好があらわになるのに、もう、体が熱くなりすぎて、訳が分からず、私の鍵をまだいじり続けている腕を、両手でつかんで、思わず爪をたててしまう。  ……でも『腕』は逞しくて。 私の爪くらいでは、傷つけも出来ない。  胸を掴まれていた方の手に、凝り固まったその先を両方いっぺんに転がされた。  また声をあげて、あげ続けて、身悶えする私の目の前に、更に、別の、手。  ゆっくりと降りてきて、私の唇をなぞる。 ……アァ。キス、のよう。  切なくてたまらなくなって、大きく舌を伸ばしてその指先にふれると、指も私を受け入れて、甘く私の舌をつまむ。 もゥ……このまま。オネガイ。  そう思った瞬間、寝ぼけた、でも薄笑いの声で、貴志さんが浴室のドアを乱暴に引いた。 「なんだ、マキ。 満足できずに、お前、一人でヤッてんの?  スゴイ声がこっちまで……」 笑っていた貴志さんの顔が、浴室の私の姿を見て、凍り付いた。  私の体を抱いている、無数の『腕』。 そう……『腕』、だけ。  一瞬、私はサビシイような気持ちで彼を見る。 ……この『腕』が私の浴室に顕れるようになったのは、あなたが来なくなってから。  私が一人ぼっちで泣きそうになって居る時に、一緒に居てくれたのは、あなたではなくて、この『腕』たち。 「だから……今日は寝ないでって、オネガイしたのに」  私が『腕』に腕をからめ、首を倒して彼を仰いで、泣きそうな顔で呟いた言葉も、でも、彼には届かなかっただろう。  悲鳴をあげて、脱衣所で転がり、倒れ、這うようにしながら、部屋から飛び出していく音が聞こえる。  ……どうしてあんな人がステキに見えたンだろう。 今はもう、切ない思いもしない。  ただ、天井を仰ぐと、まるで藤棚から下がる花房のように、びっしりとそこに『腕』が生え埋め尽くしていて。  私が目を向けた事に気づくと、一斉に柔らかくその指先を伸ばして来る。  アァ……あなたたちとなら、最高にキモチヨク、なれそう。 「……シアワセ」  私はウットリとつぶやいて、体を這う指先に身を任せた。
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