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学期末テストが続き、さすがにネネも成績が危うくなり病院に行かれなくなったが、チエコはその間、毎日切り貼り絵をしていたようだ。
試験帰り、ほぼ完全徹夜の状態だったネネだが、病院に向かった。
チエコはベッドから起き上がれなかったが、ネネの顔を見ると、「こんにちわ」と言った。そして千代紙と画用紙がばらまかれた枕元の果物カゴに、白く痩せ細った手を伸ばした。その手の細さに、ネネは胸が詰まる。
白い手が、ひらひらとカゴの上を舞う。
「何が食べたいの?」
白く細い指が、黄色い果実を指した。ネネはレモンをその手に載せた。チエコが重そうに、レモンをそのまま口に運ぶのを見ていた。
カリッとチエコの白い歯が、瑞々しい皮を齧った。チエコはにっこり笑い、ネネを見る。チエコが目をゆっくり閉じるとともに、口に持ち上げられた腕は、だらんと力なく倒れ、レモンは床に落ちた。とても、とても静かな死だった。
あまりに静かな死だったので、ネネは実感が湧かなかった。そのせいか哀しいという感情が数日間欠落した。
チエコが死んで一ヶ月くらいたった頃、ネネはチエコとよく遊んでいた公園の前を通った。
ネネは公園に入り、ベンチに腰掛け空を見上げた。そこあるのは、むかしなじみのきれいな空だ。けれど、ほんとの空ではないと、チエコは言った。それは遠い昔のことのように思えた。
ほんとの空は、いつから失くなったのだろう?
ネネは、あくびをしながら思った。そしてどっと涙が流れた。
終
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