第1章

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「チエコノシツボウ」  ネネの姉、チエコが総合失調症を発症したのはネネが十三歳、チエコは十五歳だった。いや、本当はもっと前かもしれない。周りがチエコの様子に気づいたのが十五歳だったのだ。  ネネは、統合失調症で肺水腫を煩い、二十歳を待たずに失くなった姉を、レモンを見るたびに思い出した。必ずレモンの陰に、チエコの白い歯を思い出すのだ。 ネネたちが小学生になるかならないかというときに、両親が離婚した。両親が離婚した家庭というのは、親も子どもたちも、表面上は分からなくても生きるのに必死で、姉妹同士でさえも見えていないことがあるものだと、ネネは大人になってから思った。ネネは自分のことに一生懸命で、気づいたときにはチエコの頭と心は壊れていた。  中学生といえば一番多感な年頃で、多くの人間が初めて自分の人生に、ある程度の道の方向性を出さなければいけない時期である。だからチエコが時々、ニヘラと笑っても、その笑みをすぐに引っ込めてしまえば特に気にかけはしなかった。  子どもの頃から負けん気が強かった妹のネネに比べ、チエコは幼い頃から大人しい子どもだった。また、よく風邪をひいて喘息も起こした。総合失調症を発症する前に、気管支も患っていたのだ。小学校に上がったばかりの頃、一緒に寝ていたネネは、チエコの喘息が起きるとうるさそうに布団を被って朝まで寝ていた。
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