第1章

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母は離婚当時、子供たちを引き取るというよりも、父に有無を言わせず子供たちを連れ出したらしい。父は職が不安定だったので、その場は引き下がったようだったが、チエコのことは心配だったようだ。帰り道に父に呼び止められたチエコは、話すうちに父と離れがたくなり、一緒に電車に乗って父の住む町に行った。 「駅を降りた瞬間から、息ができた」 チエコはにっこり笑い、その町に着いたときのことははっきりと語った。 「光る川が流れてた」 けれど駅名や町名は記憶に無いのだった。 「パパと何話したの」  ネネが尋ねると、首を振る。 「何も話さない。松の木の根っこに座ってた。風が吹いた」 父は、ずっと手元に置こうとは思わなかったらしい。チエコを抱きしめた後、電車に乗せたという。 「白い雲が失くなっていった。白い、雲!」  突然と空を指差す。 「アレガアタタラヤマ。アノヒカルノガアブクマガワ」  そこまで言うと、突然ドンドンと壁を叩き、暴れ始めた。 チエコは、連れ去られる前から精神の病気を発病していたのかもしれない。けれど、周囲に知れ渡ったのは、戻ってきてからだ。チエコは、ニタッと笑った後に怯えた顔になることを繰り返し、言葉もどんどん片言になっていった。 チエコは学校にも行かなくなった。母やネネはチエコの言動が精神的におかしいことは認めていたが、家族から精神病の患者が出ることを受け入れられなかった。チエコは病院に行き、精神安定剤をもらってきた。
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