第1章

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「チエちゃん、外行こう」  ネネは、窓際に座り居もしない鳥に「ちい、ちい、ちい」と話しかけている姉を連れて、家の近くにある公園に連れだすようになった。チエコも大人しくネネに手を引かれてついてくる。 ジャングルジムと滑り台と砂場しかないような小さな公園に着くと、チエコは遊具で遊ぶわけでもなく、ベンチに座って口を開けて空を見上げた。 「ほんとの空ではない」 そう言ったかと思うと、砂場に駆け出しあちこちをほじくり返した。 「何してるん?」  ネネが尋ねると、「お花」と言う。ネネは、自分より背の高い姉のしゃがみこんだ背中を見て、どうにかしなくてはいけないという危機感に駆られた。  ネネは父と連絡を取り、チエコの発病の糸口を見つけようと母に提案したが、母は父と連絡を取ることを頑なに拒んだ。最後には泣きそうになった母親にネネも諦め、チエコを母と二人で別の精神科病院に連れて行った。そこで初めて、チエコは「総合失調症」と診断された。 壁を叩くなどの行動はあったが、家族に対する暴力は見られなかったので、当分は通院で、薬での治療が始まった。病院で心理的社会療法なども行っているらしいが、ネネから見るとチエコの態度は悪化の一途をたどっているように見えた。 そしてある日、いつものように「ちいちい」と空に問いかけていたチエコは、突然窓ガラスをバンバンと叩き始め、部屋の中にあるものを手で払い始めた。駆けつけたネネも、ものすごい力で払われ絨毯の上に転がった。弟は泣き出し、母は震えながら子機を手にして病院に連絡を取った。
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