第1章

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「ああ、そうだな」俺はブレーキを離して少しだけアクセルを吹かせた。ぶつからない程度にだ。 「俺もお前のハンバーグが食いたいよ、お前がスリムになってくれるからな」 「どういう意味よ?」 「お前のダイエットに一役買えるのなら悪くないってことだ」 「ふーん、面白いこというわね」彼女は乾いた笑みを浮かべて自分の腹を見た。「じゃあ今日はスーパーによらないで、あなたのお肉を貰おうかしら。ガリガリだから、一食分くらいしか作れないだろうけど」  彼女はそういってじと目で睨んできた。先ほどまで誘惑してきた瞳が猛獣を駆るような狂気に染まっている。 「やめて、ぶたないで」 「何いってるの」そういって彼女は手を握ってきた。「でもそういう冗談がいえるあなたが好きよ。だから早く帰ろ?」  彼女の顔と太一の顔を見て帰りたい、と俺は本気で思った。この気持ちは嘘じゃない。俺は退屈を抱えながら、このブロンズの日々を過ごすことを決めた。  この気持ちは何年経っても変わらない。たとえそれがゴールドやシルバーのように輝かしいものではなくても俺を満たしてくれるものがあると気づいたのだ。
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