第1章

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 俺はそれほど前ではない過去を回想する。  6年前に彼女と結婚し、5年前に子供を授かり特に問題がないことが俺の生き甲斐になってしまっている。昔はあれだけミッションの車を運転することが俺の使命であるかのように走っていたが、家族ができて俺の車はオートマのファミリーカーになってしまったのだ。  渋滞を自動的にゆっくり進む車を見て、俺は自分の人生とこの車をシンクロさせてしまう。俺の人生はもう踏み出さないでも進んでしまうのだ、俺の意思とは別に。  ……このロードの上に俺の幸せは残っているのかな。  俺は後ろで寝ている太一を見て考えた。こいつが健康なことが何より嬉しい。無邪気に走り回り、俺の顔の上で転がり回っても俺は気分を害さない。目に入れたら痛いが口に入れても美味しく頂けそうなくらいには愛情があるつもりだ。  太一と共に過ごす日々が俺を精神的に大人にしていくと実感する。もう子供には戻れないのだ。  ……俺の幸せはどこにあるのだろうか。
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