第1章

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 俺は彼女の寝顔を見て疑いを覚える。彼女のいっている条件はあながち間違っていなかった。家事育児はきちんとしてくれるし、俺の父親が早死にしたため母親と同居しているが、特に問題が起きる様子はない。お互いに溜まっているものがないかというと微妙だが、冷戦状態までで留めてくれる。  本当にできた妻だ。  ……だが、結婚したこと自体が間違っているのではないか。  俺は自分の考えに疑問を思った。結婚生活は悪くない。だが俺自身の行動が制限され過ぎて牙を失ったと感じてしまう。肉食動物として威嚇行動ができなくなったら終わりだ。自ら狩りができなくなれば、本能自体が薄れていくし、いつの間にか餌がくるのを待つ生活をしている。とてもじゃないが充実感というものはない。 「あ……ごめん、寝てたわ」  妻が起きた。結婚する前は運転中でも必ず起きていてくれて、必ず横でサポートをしてくれていた。ナビや食事の取り分け、ストローまできちんと封を破って必ず挿してくれピックまで必ず曲げてくれていた。  それが今では飼育小屋に寝ているような子豚になり、小さい体を丸めていた。これはこれで可愛いと思うが、先を考えると少し恐怖を覚える。
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