第1章

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 これ以上太ってしまうと出荷の時期を検討しなくてはいけなくなるからだ。 「いいよ、まだ掛かりそうだし」  俺は本心でそういった。こうやって一人で過ごす時間は嫌いじゃない。独身の頃は寂しかった時間が今では望むまでに欲しい。  とてもじゃないが一人で淡々とプラモを作っている時間などない。 「そう……悪いね」  そういって彼女は寝る体制に入りながらいった。 「……いつもありがとね」 「ん?」  俺は聞こえない振りをしたが、きちんと聞こえていた。できるならもう一度いって欲しかった。 「感謝してる、いつも私の愚痴に付き合ってくれること」 「それくらいでよければ5分でも付き合うさ」 「短すぎるでしょ」妻は俺の発言に突っ込んだ。「でもそんなこといって最後まで聞いてくれるから、私は感謝してる」 「聞いてくれるというか聞かなければいけないだろう。ヘッドフォンしていて聞いてないといっても説得力がないのと一緒だ」 「また、そんなこという……」  彼女は身を丸め体操座りのような格好をした。 「せっかく、正直にいったのにさ……」 「ごめんごめん」 「あの頃に帰りたいとか思ってる?」  彼女が不意にいった一言で俺は固まった。
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