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「はい」
その女性は素直に返事をした。
勇助は自分でも何故それほど積極的になったのかわからなかった。
その日は籠手を打つことはなく、もっぱら受けにまわった。
その女性も面を狙うことはなかった。
「ありがとうございました」
力量が段違いなのを彼女も理解したのだろう、にこやかにお辞儀をした。
その後も勇助はその女性が来るたびに相手をした。
そして面を打つときに出来るスキや
自分が得意としている籠手の打ち方を教えるようになった。
その女性は素直に勇助の指導を受け入れるようになり、見る見る上達した。
やがて稽古に出ると、
女性は真っ先に勇助のところへやってくるようになり、いつしか次の大会で入賞することが二人の目標になっていた。
気がつくと勇助の心の中に彼女は深く入り込み、
その女性も勇助の心を受け入れていた。
「今日もお願いします」
「こちらこそ」
正眼に構えた竹刀が「カン」という乾いた音をたてた。
やがて激しい打ち合いになり、二人は鍔迫り合いになった。
勇助は目の前に迫ったまっすぐな女性の目を見て微笑んだ。
その女性も満面の笑みでそれにこたえた。
二人の胸の中に同じ熱いものが流れ出していた。
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