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「……あんた、まさか失くしたんじゃないでしょうね?」
この瞬間、誰もが抱いていた不安をエミリィが口に出したことで静寂は一気に崩れる。
パーティー全員の顔が青くなる。
「……」
勇者は何も答えない。
「はぁ、どうして失くすの? ありえないでしょ?」
エミリィが勇者を怒鳴る。
「いや。待てってまだ失くしたって決まったわけじゃないし」
「嘘でしょ。だったらなんですぐ出てこないわけぇ?」
「そ、それはその……」
「ちょっとなんで目逸らすわけ? ちゃんとこっち見なさいよ」
「そ、逸らしてなんかないし……」
「嘘じゃろ勇者よ。そもそもお前がリーダーだから持つって聞かなかったんじゃし」
「これ、これ貴様たち……」
緑色の指がトントンとエミリィの肩を叩いた。
しかし、興奮しているエミリィはそれを無視して勇者への話を続ける。
「どうしてあんたはいつもそうなの?」「いや、いつもじゃないし」
「これ、これ貴様たち」
緑の指はもう一度さっきよりも強くエミリィの肩を叩いた。
しかし、やはりエミリィはそれを無視する。勇者たち一行の会話は止まらない。
「勇者よ。失望したぞ」
賢者ガルフもため息を吐く、
「いや。でも……」「でもじゃないでしょ」「いや、だって……」「言い訳は見苦しいぞ……」
「これ、貴様たち!」
それでも声の主はもう一度、エミリィの肩を叩く。
「何よ。さっきからうるさいわねぇ。今取り込み中なんだから、ちょっと黙ってて」
声のする方をエミリィがキッと睨む。
「あっ」
睨んだ視線の先には魔王グレゴールがいた。魔王の眉間では、その冷静な語り口とは裏腹に、太い静脈がピクピクと動いている。
「……ワシを無視するな」
「あ、ごめんなさい」
ホホホとエミリィは笑う。
「ほーらどうすんのよ? 魔王さんご立腹じゃないの」
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