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すぐに向き直って小声で勇者に耳打ちをする。
「いやでもさ。しょうがないじゃん」
「しょうがないってどうすんのよ」
「……取りあえず事情話して、許してもらうしかないし」
「あの~、ちょっといいですか?」
勇者は魔王グレゴールの方を向いて控えめに右手を上げる。
「なんじゃ?」
「すいません。あの……言いにくいんですけど……その、魔法のアイテム、なくって」
「え~ないってどういうこと?」
この時、残虐非道、冷酷無比と言われた魔王グレゴールの顔が崩れた。ぽかんと開かれた口は今にも顎が外れそうである。
「え~ちょっと、それ困るよ~。ワシも久々の挑戦者で、内心張り切ってたのにさぁ~。部下たちにも威厳示せるって思って変身だって後、二回くらい用意してたのに。もっと頑張ってもらわないと~」
よほどがっかりしたのか、魔王から先ほどまでの威厳が薄れ、悪い酔いした酒場の客みたいな口調になり始めた。こう見えて地獄の魔王も結構苦労が絶えないようだ。
「いや~面目ない」
「だいたいあれないとワシ倒せないって村人とか言ってたでしょ?」
「いや。違うんですよ、それは分かってたんですよ。だから、ちゃんと北の山までいって取って来たんですよ」
「本当にぃ? ちゃんと暗黒魔人倒したの?」
疑り深い視線で勇者の顔を見つめた。
「そうなんですけど、ここまで来る途中にどっかでその……」
「その?」
「落としたみたいでして……」
「ホラ、やっぱり失くしたんじゃない」「おお、勇者よ」
後ろで嘆きの声が聞こえるが、最早なりふり構っている場合でもない。
「は? マジで? つーか、それ取ってないよりヤバいじゃん。アレ一点ものだよ」
「で、ですよね」
ハハハと後頭部を掻いた。
「そもそもおかしいでしょ~。勇者がアイテム落とすとか」
「いや、ほら、地下四階に落とし穴あったじゃないですか? 多分あそこじゃないかって思うんですよねぇ~」
勇者はそう頭を掻きながら答える。
「何じゃと?」「そう言えばあんたあの時、派手にすっ転んでたわね」
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