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「いや、思うんですよねぇ~って言われても」
「ちょっと、取ってきたいんですけど、駄目ですかねぇ?」
「え~、だってワシ、魔王だよ。魔王が勇者逃がすのって普通だめでしょ」
「ですよね~。どうしようかな~」
「あっそうだ」
気まずい沈黙の後、何かを思いついたように勇者は手をポンと叩いた。
「うん? 何じゃ?」
「ちょっと耳貸してください」
魔王グレゴールが勇者の方に近づくと、勇者は後ろの方を気にしながら魔王に耳打ちする。
「じゃあ、アイテム使った感じでお願いできませんかね?」
「は?」
「いや、僕も仲間の手前とかあるんで、フリだけしてもらえればいいんですけど……ダメですかねぇ」
そう言って勇者は笑った。
ブチンッ
この瞬間、魔王グレゴールは自分の血管が切れる音を聞いた。
これ以上話をしても埒が開かない、そう感じた魔王グレゴールは再び大きな口を開けた。全力の氷の息吹が、勇者たちを襲った。その威力の前には、賢者ガルフの光の壁も役には立たない。
「ちょっ、まだ話は終わってないんですって」「いやあぁぁ、こんな死に方」「おお、神よ」
こうして勇者たちは教会から再び冒険をやり直すハメになったのだった。途中、ボコボコに顔を腫らした勇者が泣きながら、地下四階の床を調べたのは言うまでもない。
完
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