第1章

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 一般社会では都市伝説扱いで語られる<闇デスマッチ>。ルールなし、時として武器の使用も許される、相手が死ぬか戦闘不能になるまで戦う試合だ。 そこで客は多額の金を賭け合ったりするし、その血生臭さに酔う客もいる。当然非合法で、その客は政財界の大物から裏世界で利権の決着のために催される。  決まった主催組織はなく、裏社会各々の組織の寄り合いで運営されている。  ジョンソンは沈黙したままだったが、それを否定するのは無用だった。  なぜならば、ユージはその<闇デスマッチ>に闘士として参加したことがある。リチャードの組織に頼まれ、特別に数度引き受けた。そのことを告げるとジョンソンは珍しく表情を変えた。ユージがそれを知っていることは驚くべきことではないが、闘士だったという話は初耳だった。 「俺は仮面を被っていたからな」  それも珍しい事ではない。古代ローマの剣闘士たちのように、ハデな装飾をつけての試合も多い。 「成程…… その試合は是非、見たかったね。さぞ凄惨だっただろう」 「俺は相手を殺さなかった」  戦闘不能になれば殺さなくてもいい。ユージは戦ったときは、相手の腕や足をへし折り戦闘不能にした。殺されるよりはマシだろう。 「あの<人間闘犬>とでもいったらいいのか。 ……<闘犬側>については詳しいか?」 「残念ながら、私自身は<闘犬>は飼ってなくてね。見る専門だよ。そうか、君は<闘犬>でもあったのか。それは随分とアンフェアな話だ…… 君は犬ではなく、野生の巨大な狼といったところではないか…… いくら闘犬でも狼相手では相手がわるかろう」 「世辞は結構。ならアンタは<闘犬側>がどうかは知らないワケだ」  ユージはこの<闇デスマッチ>を捜査官として追及しているのではないようだ。 「<闘犬>のブリーダーはごく限られているからね。ブリーダーがいることは知っているし何人かは面識もある」そういうとジョンソンはニヤリと音も立てず皺だらけの顔で笑った。 「君の目的はブリーダーのことなのかね? 君も復讐かい?」 「それは今後の返答次第による。だが安心しろ、別に裏社会を否定してはいない」 「結構」  ユージは懐から煙草を取り出し一本咥えた。 「アンタが知らないことが二つある。どっちも今回の事件に関係することだ」 「ほう」  煙草に火をつけユージは煙草を吸い始めた。拓ほどではないがユージも喫煙者である。
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