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翌日の早朝。ユージは、一人の男とセントラルパークの散策道で待ち合わせた。
午前6時28分…… NYはまだ起き出したばかりで、この散策道も朝のランニングや犬の散歩をする人間がちらほらあるだけで静かなものだ。
そのなかでスーツ姿の二人はやや異様だった。出勤には早い時間だし、男から放たれている裏社会の人間独特の闇と威厳を纏い放たれる臭気のような雰囲気は、この朝の清々しい森林に囲まれた爽やかな散策道に相応しくない。そしてそれとよく似てはいるが、僅かに違うオーラを纏っているのがユージの雰囲気である。どちらにせよ、二人共この場に相応しくない事だけは確かだ。
男はアデウス=ジョンソンだった。連れはいない、少なくとも視界範囲内には……
二人はそろうと無言で歩き出した。
「昨日はウチのロックのために骨を折ってもらって有難く思っているよ、ミスター・クロベ。逃がしてしまったのは残念だが、やはり君に頼って正解だったよ」
「………………」
「凄い闘いだった。私もムービーを見せられて鳥肌が立ったものだよ。あの現場でリアルにファイトを観られたロックは幸運だった。あれだけのファイトを間近で体験できるならば、観戦に10万ドル払っても席を買うよ」
どうやら彼らもどこかに監視カメラを隠していたらしい。科学捜査班はそれを見つけてこなかったから、おそらくロックたちの誰かが素早く回収したのだろう。ちなみにユージたちはJOLJUが堂々と録画して記録している。
「そう、その話をしようと思って貴方を呼んだ」
「ほう。なんだろうか?」
「今回の事件で糸口を掴んだと思う」
「さすがだ、ミタスー・クロベ」とジョンソンは無表情に頷き「それは司法省よりまず私の説明がいる、それがこの朝の会談だと理解していいのかね?」
「普通の上司には言っても信じてもらえん話だ」
「グッドだ。君の聡明さには感謝する」
「リチャード=オースティンを覚えているか? 昔の俺を使っていた男だ」
昔…… それは潜入捜査官時代のことで、リチャードは無免許医ユージ=クロベを裏世界に斡旋した裏世界の顔役の一人だ。今は故人である。
ジョンソンは頷いた。
「あんたは<闇デスマッチ>はどの程度好きだ?」
「…………」
ユージはいきなり核心をついた。元々仕事で雑談はしない男だ。
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