第1章

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 文夫は自分の書いた小説を投稿する事に没頭していた。元々、本を読む事は好きではあったのだが、何気なく自分の書いた物を投稿したところ思った以上のアクセスがあり好意的なコメントもあったからだ。  話のストーリィとしては、国籍不明のカタカナネームに転生した主人公が波乱万丈の人生を送るといった類の脳内麻薬にどっぷり浸り溺れたような物だった。 『どうだい! 俺の世界観、その深遠さは果てしないだろう』位に思っていた。  ネットで『いいね』を呟き合えば、類が友を呼び共鳴し合い親友となるといった狂った世界の住人が蔓延しており、脳内麻薬中毒患者同士が苦労して理解に努めているようだ。見渡せば世の中には文夫と同じ人種がわんさかいた。  調子に乗った文夫は続編をこれでもかとばかり書き続けた。そんなある日、あるコメントを目にした。 『恣意的なのは結構だが、どこの国の移民なのか出処不明のカタカナネームの羅列は稚拙だ』これには少なからずダメージを受けた文夫だったが、未来に国籍も何もあるか! ファンタジーに定石はないと憤ってみせたのだが。それでは治まらなかった。 『自己満足以前の世界観はもはや精神未熟児』それからは中傷的なコメントが相次いだ。  これはこれで似たような世界の住人なんだろうが、アクセスが増えれば気に入らないも出てくる訳で。そんな許容量が文夫にあるはずもない。  結局、文夫は自信も楽しみも世界観も、居心地の良い仮想世界の全てを失くしてしまった。
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