1章:告白

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. 「今日も誰も来ませんでしたね」 俺の隣で、宮沢愛花さんはそう言って困ったように微笑んだ。 「来ませんでしたね」 俺は鍵をかけてきたばかりのドアを振り返る。今日も誰もこなかった。この、歴史民俗資料館。俺はここの館長だ。25歳にして。まあ定年退職する親戚が俺を推薦してくれたってだけなんだけど。宮沢愛花さんもここの職員だ。俺より長くここに勤めている。 「まあ仕方ないですよ、四月ですし。やっぱり五月にならないと暇ですよ」 「ですね」 俺は頷く。去年も、五月は忙しかった。子供たちが調べ学習に来るのだ。この、資料館と言えるのかも怪しい小さな場所へ。そして拍子抜けして帰っていく。図書館にもいかなきゃなあなどと言う寂しい会話を残して。 この資料館に展示されているのは、昔の人たちが使っていたという農業の道具や、この島の名産である百合の花の模型とその説明くらいだ。本当にそれだけしかない。手作りのパンフレットなんかもあるけれど。25歳でこんなとこにいるのは本当にまずいと思う。件の親戚も50を過ぎてから配属されたと言っていたし。今日も宮沢さんはせっせとスマホで遊び、俺は掃除したりパンフレットを作ったり、資料をまとめたりしていた。要は暇なのだった。
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