1章:告白

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俺は裏口から職場を出て、そこにも鍵をかける。カバンにしっかりと鍵をしまって、すぐそばに適当に停めてある車に乗り込んだ。 今日はもう誰にも会いたくない。買い物もしないで帰ってすぐに寝ようと決める。 家まで車を走らせる。見渡す限りのさとうきび畑にややいらだちを覚える。カーステレオから聞こえてくる声は10年前から好きだったバンドの新譜だけれど、今日は全然心地よくない。俺は乱暴にボタンを押して、かすれ声のボーカルを黙らせる。 ああ、疲れた。 一昨年の三月、俺はこの島に帰ってきた。四年間の大学生活を終えて。島を出た多くの同級生はほとんどみんな本土で働いているというのに。島に帰ってきた連中も、最近は家庭を築いていて幸せそうだ。俺だけが現状に不満を抱えてくすぶっているような気さえする。俺がわるいのだけれど。 俺は、この島が大嫌いだ。 もともと全然好きじゃなくて、海が青いことと空がでかいことの価値なんかわからないし、ただ狭くて、自然がきれいだなんて言われてもそんなの全然嬉しくなかった。今もそうだ。仕事だから島の歴史は調べるけれど、興味があるわけじゃない。島が嫌いなのに島に帰ってきて島の歴史について調べてまとめているのは、本当に馬鹿みたいだと思う。
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